桜の森の満開の下/坂口安吾
私は20歳ぐらいの時に読んだ記憶があります。
多分、好きな文学作品のベスト3に入っていると思います。
作品のバックグラウンドに桜があって、それが恐ろしいもの、人の心を惑わせるものとして仄めかしているところがポイントかなと思っています。
以下、作品のクライマックス部分になりますが、気に入っている表現を紹介します。
- そこは桜の森のちょうどまんなかのあたりでした。四方の涯は花にかくれて奥が見えませんでした。日頃のような怖れや不安は消えていました。花の涯から吹きよせる冷めたい風もありません。ただひっそりと、そしてひそひそと、花びらが散りつづけているばかりでした。彼は始めて桜の森の満開の下に坐っていました。いつまでもそこに坐っていることができます。彼はもう帰るところがないのですから。
- 彼は始めて四方を見廻しました。頭上に花がありました。その下にひっそりと無限の虚空がみちていました。ひそひそと花が降ります。それだけのことです。外には何の秘密もないのでした。
- あとに花びらと、冷たい虚空がはりつめているばかりでした。
青空文庫でも読めるみたいですので、まだ読まれていない方は是非。
では、次回もお楽しみに。